街角10min

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022 サーリセルカ
オーロラより貴重な
少ししか姿を見せない太陽
 サワッサワッと、音がしたような気がする。気のせいか…。いや、かすかに聞こえる。ゾーッゾーッというような音と、枝が擦れるような音もしてきた。どれも聞き覚えがない音なので、それが音なのか定かではないが、確かに、音が漂っている。

 午後9時を少し過ぎた寒くて風のない夜、空に巨大なオーロラが舞い始めた。黄緑色をベースに、白っぽい色や青っぽい色が不規則に混ざり合い、美しいカーテンになる。すぐ後ろに新しいカーテンが誕生すると、今までのものはフワッと消え去る。3秒ほどの間を空けて、今度は左の方から現れた。これは複数色のものではなくて、ほぼ黄緑一色。しかし、決して地味ではなく、やはり華やかな舞を披露してくれた。かすかだが、カッカッという音も聞こえてきた。誰かが何かをしているわけでもないのに、光のショーと不思議な音の競演が目の前で繰り広げられている。あまりに美しく、あまりに儚げなので、誰も声を発することができずにいる。

 人口約350人の小さな町サーリセルカ。フィンランド北部の北極圏内に位置し、冬はオーロラ観賞の拠点となる。住人は犬も含めてほとんどが顔見知り。観光客であっても、2日も滞在すればもう知り合いだ。事実、昨日すれ違ったオスのフィニッシュ・ラップフンドに再会したときなどは、まるで「また会ったね」とでも言っているかのように、尻尾をフリフリさせて近寄ってきたくらいだ。辺りは一面の雪景色で気温は低いが、このように歓迎されると温かい気持ちになる。
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街角10minとは… 旅のショートショート『街角10min.』 目の前で起こる偶然は、私だけのストーリー。旅先では、ひょんな出会いが、一生の思い出に…。ふと感じる、街角の数分間。 そんな、夢にも似た物語をお送りします。