街角10min

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018 モンテベルデ
“ 幻の鳥 ” ケツァールがお目当て
生命で溢れる低温ミストサウナの森
 この旅のために、少し奮発してアノラックパーカーとトレッキングシューズを買い揃えた。いずれも高い防水機能を備えたもので、少々の雨なら傘いらずのアイテムだ。そのおかげで中の衣類は濡れることなく、順調に観光はできている。毎日同じものを着ているので味気ないが、思い切って選んだ明るめのオレンジ色は、旅先で知り合った仲間たちにすぐに覚えてもらえた。
 二番目の吊り橋の対岸に近づいた頃、「クォン・クォン」と控えめな鳴き声が聞こえた。頭と尾が青緑で、胸が真っ赤、くちばしの先端が黄色という、一度見たら忘れられない艶やかな姿、“幻の鳥” ケツァールだ。この地域は生息数密度が高いと聞いてはいたが、彼らには彼らの暮らしがあるから、出合えるといってもそれはあくまで偶然のできごと。これは幸先がいい。鳴き声は、風で枝葉が揺れる音に掻き消されそうにかすかだが、私たちの心を沸き立たせるには十分だ。
 どうやら2羽いるようだ。1羽は尾が長く、もう1羽は尾は普通なので、オスとメスなのかもしれない。ガイドは先に行ってしまったので確認はできなかったが、恐らくそうだろう。森に入ったばかりで、いきなりお目当ての登場。大慌てでカメラを構え、ズームレンズを最大までアップにした。美しい。付かず離れずの、カップルとしては微妙な距離を保ちながら、2羽のケツァールはさり気なくこちらを向いてくれている。シャッターを切った。すると、メスがほんの少しだけ尾を縦に振る。こちらの願いを知ってか否か、お決まりのポーズを決め込んでいるように感じる。吊り橋がぐらついていることに気が付くまで、夢中でシャッターを切り続けた。
 ファインダーから目を離すと、瞬く間に周囲は人でいっぱいになっていた。この吊り橋はこんな人数に耐えられるのか。少し不安になったが、私以外はお構いなし。みな声を殺して、ジェスチャーだけで大騒ぎ。当のケツァールは落ち着いたもので、メスが一度反転して向きを変えた以外は、ほとんど動かないでいてくれた。その間4分あまり。メスが先に飛び立つと、後を追うようにオスが飛び立った。ため息とざわめきが混ざる群衆。大きな収穫にみな満足そうだ、一人を除いては。
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街角10minとは… 旅のショートショート『街角10min.』 目の前で起こる偶然は、私だけのストーリー。旅先では、ひょんな出会いが、一生の思い出に…。ふと感じる、街角の数分間。 そんな、夢にも似た物語をお送りします。