カナディアンロッキー

007

エルクはそこへ近づいていく
男性は本を読んだまま

カナディアンロッキー(カナダ)

 バスを降りた瞬間から、すでにテンピークスの勇姿が見える。ビューポイントへの道程は岩だらけだが、そこを上り詰めると、青々としたモレーンレイクが凛とした姿を見せる。雲はまばらで、風はない。少々息が上がっていたので、ミルフィーユ状の地層がむき出しの岩盤に腰掛けて、しばしの休息。動くものはなく、おそらく何万年もこの風景のままだったのだろうなと、空想に浸ってみる。
 視界にチラチラと動くものが飛び込んできた。リスだ。素早く動いては止まり、また動く。これはチャンスとばかりにカメラを取り出すと、岩陰に飛び込んでいって、姿を消してしまう。数秒後、こちらの様子を伺うようにそ~っと現れたかと思うと、わずか2メートルほどのところまで近寄ってきて立ちポーズ。前足をこすりながら、首を傾げておどけてみせてくれた。雄大なテンピークスをバックに、可愛らしい写真を撮ることに成功。ん〜、満足満足。
 振り返ると、友人やツアーの仲間がニヤついている。白人の旅行者は親指を立てて「グッ、ジョブ!」。どうやら皆、私とリスのやり取りを写真や動画に収めていたようで、それがなかなかいいシーンだったらしい。うれしいような、気恥ずかしいような。

バンフ カナディアンロッキー 街中にいる野生のエルク

 やはりここは、野生動物との共存がさりげない。カナディアンロッキー観光の拠点バンフでは、「ベア通り」「カリブー通り」など、通りの名前のほとんどに、周辺地域に生息する動物の名前が付けられている。北米の多くの町が、人物の名前を多用することを鑑みればそれはたいへん珍しく、しかも可愛らしい。ここは人が住む町ではあるが、同時にさまざまな生きものが暮らすフィールドだということを、人が自ら宣言した証なのだろうと感じることができる。ここはラビット、あそこはウルフなどと、町の議会で採決したのだろうから、この町の大人は粋である。しかも、野生動物たちも、それがわかっているかのような振る舞いを私たちに見せてくれる。そんな醍醐味が、ここにはある。
 メインストリートのバンフアベニューから2ブロックも入れば、当たり前のようにエルクが闊歩する姿を目撃する。しかし町の人は、いつもの住人とすれ違うが如く、気に留めようともしない。当のエルクも、ホテルの従業員用駐車場脇をすり抜けて、歩道を歩いたかと思えば、その先の住宅の庭先で草をつまみ食い。ポロポロっと用を足したあとは、今度は川沿いへと移動して…。
 美しいボー川のほとりの遊歩道にはベンチが据えてあって、初老の男性が読書をしている。エルクはそこへ近づいていく。男性は本を読んだまま。エルクはすぐ後ろで少しだけつまみ食いをするが、男性は気にも留めずページをめくる。そして何事もなかったように、エルクはゆっくりと姿を消していった。
 この間、エルクを気にかけていたのは私だけ。なるほど、たしかにこの「さりげない」は、ここを実際に歩いてみないとわからない独特の感覚。しかも、ただ歩いただけでわかった気になるのが不思議だ。そして、その現実は強烈にうらやましい。

バンフアベニュー カナディアンロッキー

 バンフアベニューに戻る道すがら、目の前の木でリスが奇声をあげているところに出くわす。なかなかの大喧嘩だ。そろそろこちらもお腹が空いてきたせいもあって、足を止めるでもなく、モレーンレイクのときより気に留めていない自分がいることに気が付く。誰かがこのシーンを目撃したなら、きっとそれは「さりげない」一場面に映っただろう。たった一日で、私もこの町の風景の一部になれたような…。
 バンフアベニューは相変わらず観光客で賑わっている。一旦ショッピングを終えて、食事に向かう人たちがワイワイやっているようだ。読書をしていた先ほどの初老の男性を見かけた。テイクアウトのコーヒーを携えて家路につくようだった。さあ、いよいよお腹が空いてきた。

文:

街角10minとは… 目の前で起こる偶然は、私だけのストーリー。旅先では、ひょんな出会いが、一生の思い出に…。ふと感じる、街角の数分間。 そんな、夢にも似た物語をお送りします。旅は、いいものですね。

カナディアンロッキー
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