サントリーニ島

016

ゆる~い雰囲気がたまらなくいい
この島ではたっぷりの時間を

サントリーニ島 ギリシャ

 島の固有品種「アシルティコ」というブドウを使ったオーガニック白ワインが素晴らしい。柑橘系のアロマが印象的でありながら飲みやすく、前菜のオリーブオイルでマリネしたイワシとの相性がすこぶるいい。イワシに合うおすすめは何かと尋ねて偶然出合ったワインだが、あまりの美味しさにサラリと飲み干してしまった。空のグラスを掲げて、おかわりがほしい旨をジェスチャーで伝えると、少し遠くにいたウェイターは笑顔ですばやく対応してくれる。先ほどと同じボトルから、なぜか先ほどより少し多めに注がれた。そして、ほどなく炭火で焼いたタコのグリルとボリューミーなカラマリが運ばれてきた。

 アテネの南東200㎞ほどに位置するサントリーニ島。雪を頂いた山のように、高台に白い街が広がる島で、周囲のほとんどが断崖絶壁のため中腹はない。散策は徒歩が中心で、狭い路地や階段の連続だ。しかし、ここでは厳しい立地に備えた装備や気構えなどは必要ない。なぜなら、どこからでも絶景が楽しめるからだ。なんなら、一歩も動かなくてもいい。それでもサントリーニ島の魅力は十分に味わえる。犬は大あくびでゆったりしているし、人々はカフェで寛ぎっぱなし。とにかく、ゆる~い雰囲気がたまらなくいい。

 蜂蜜がたっぷりかかったギリシャヨーグルト&フルーツという甘美なデザートでランチで締めくくると、誰もが「これは代謝せねばならん」とばかりに席を立つ。街は常にそんな人で溢れていた。カラフルな絵皿がラインナップされた陶器店では、値段交渉だろうか、白髪の御婦人が電卓を持った店主に詰め寄っている。店主は少し困ったような仕草で、何度も電卓を打っては見せる。そのたびに御婦人は肩をすぼめた。一転、店主は奥の小部屋に行くと小さな包みを持って戻ってきた。そこからビスケットをひとつ取り出して御婦人に手渡す。そして一口。店内のゆる~い攻防戦は、新たな局面を迎えようとしていた。

サントリーニ島 ギリシャ

 散策の最中、急なつづら折りの階段をロバが行き来しているのを見かけた。大きな木箱を背負ったロバもいれば、人を乗せたロバもいる。聞けばオールドポートとフィラの町を結ぶ道らしく、ここに暮らそうとした数百年前の先人たちが、想像を超えるエネルギーを注いで作り上げたのが分かる。現在はすぐ横にケーブルカーがあり、誰もが労せず行き来できるが、ロバはすぐとなりでサントリーニ島のシンボルとして現役で働いている。この島に来たからには、そのシンボルに触れない訳にはいかない。

 まずは、ケーブルカーで下ってみることにした。見た目はスキー場のゴンドラといった風情。6両連結で、それがまとまって動く。定刻通り静かに出発すると、急勾配のため、いきなり絶叫マシンさながらの角度で下っていく。左を見ると、白い町並みがあっという間に消え、露出した断崖の茶色が視界を覆う。くねくねの道には、観光客を乗せたロバが列を成して登っている。そして、みるみるうちにエーゲ海が近くなってくる。ほんの3分弱。あっという間だった。頂上の白い町は、ここからはほとんど見えない。

 オールドポートは、ショートクルーズの観光船から戻った人で賑わっていた。エーゲ海の真っ青を味わって帰ってきた人たちは、眼の前の美しい海には目もくれず次なる興味に移っている。カフェはもちろん、冴えない土産物店数件にも人々は押し寄せていて、むさぼるような物色を開始する。自分だけが大きな流れから外れているような不思議な感覚になった。岸壁に腰掛けて透き通った水を覗き込むと、小魚が15匹ほどの群れで泳ぐのが見える。打ち寄せる波の音を聞きながら、静かな自分だけの時間を堪能した。ずいぶん遠くまで来たなぁと、しみじみ思う。

サントリーニ島 ロバ ロバのタクシー ドンキー ギリシャ

 ロバのタクシー乗り場には、二人の先客が待っていた。私たちが乗りたい旨を示すと、一人の先導役が「オーケイ」とぶっきらぼうに言い放つ。そして、各々にロバを割り振る仕草を始めた。先客の二人が手前で待機していたロバに乗ると、合図もないまま、手綱を引く先導役もないまま、二頭ともゆっくりと動き出した。先導役はそれに構うことなく、私たちに早くロバに乗るよう促す。その間も先客のロバは歩を進め、最初の曲がり角を過ぎると姿が見えなくなってしまった。先導役に教えられるがまま、連れが先に乗った。しかし、ロバは進まずに待ってくれている。次に私が乗った。すると私のロバは乗った途端に動き出し、待ってくれていた連れのロバを追い越して階段を登り始めた。えっ、勝手に進むの? 連れのロバは待ってるじゃないか! 先導役は? うろたえて声も出せず、振り落とされないように鞍にしがみついていると、後ろから連れの笑い声が聞こえた。

 私のロバは、先を行く先客のロバに早く追い付こうと、スピードを上げて小走りになってきた。1つ目の曲がり角に差し掛かったときは少し減速したが、曲がっても先客の姿が見えなかったためか、再びスピードを上げて進んでいく。前後には誰もいない。こんな無茶なことがあっていいものか、とブツブツ言いながらも、ほんの少しだけ慣れたためか、楽しさと怖さが混ぜこぜになったワクワク感に包み込まれた。次の曲がり角を曲がると、先客のロバのうち道端の草を食みながらひと休みしていた一頭に追い付いた。しかし、私のロバは少し減速したものの、お構いなしに草を食むロバを追い越して進んでいく…。

 先客を含めた私たち4頭のロバと先導役の1頭は、揃ってフィラに到着した。結局私のロバは、先頭を行く先客のロバが休んでいたところに追い付くと、後続を待つかのように止まってしまった。その間、私を乗せたままブリブリっと気持ちよさそうに用を済ませ、下りのロバの団体とすれ違い、時には徒歩で下っていく観光客から撮影されたりもした。後続と合流した後は、ときに止まってひと休みし、先導役の掛け声でまた動き出す、を繰り返してようやくフィラまで。ケーブルカーで下ったあっさりとした体験に比べて、刺激とゆるさが混ぜこぜになった濃密な20分間だった。

 先ほど飲んだ切れ味抜群のワインの心地よさは、スリリングな体験ですっかり覚めてしまったようだ。美しい夕陽まではまだ時間がある。再びワインにしようか、はたまたビールにしようか。いや、それは夕食の楽しみにとっておいて、今はピスタチオのアイスにしておくとしよう。

サントリーニ島 ロバ ロバのタクシー ドンキー ギリシャ

参考までに…

ケーブルカー(約3分・片道 6.00ユーロ)
ロバのタクシー(約20分・片道 6.00ユーロ)
徒歩(約20〜30分・片道 無料・体力に自信がある人向け)
(2018年12月現在)

文:

街角10minとは… 目の前で起こる偶然は、私だけのストーリー。旅先では、ひょんな出会いが、一生の思い出に…。ふと感じる、街角の数分間。 そんな、夢にも似た物語をお送りします。旅は、いいものですね。

サントリーニ島に宿泊するコース
エーゲ海の宝石サントリーニ島のコースはたくさんありますが、ゆる~い魅力を存分に味わうためには、この島に宿泊するコースをおすすめします。夕陽を見に集まった群衆が日没の瞬間に歓声をあげるシーン、ライトアップが美しい夜の町、早朝の散歩、周辺のショートクルーズ、試飲が楽しいワイナリー散策などなど、短時間のみ立ち寄るだけではもったいない!

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