009
アルカトラズより 気になるアイツ
サンフランシスコ(アメリカ合衆国)
皮が固いパンに穴を開け、ボール状にくり貫いたお皿で供されるクラムチャウダーと、ずっしりと重たいカニサンドで胃袋は大満足。少し歩かなければ、すべてが身になってしまうのではとの恐怖に駆られつつ、フィッシャーマンズワーフの目抜き通りを、ピア39に向けて歩き出した。さすがは観光地。とても賑やかだ。 真っ赤なオープントップのダブルデッカーに乗った観光客たちが、こちらに向けて盛んに手を振ってきた。間髪入れずに、右手に持ったソフトクリームを高々と掲げて返答をする。すると、バスの数人が「Watch out!」と叫び出した。意味がわからず、笑顔を振りまいてごまかしていると、すぐ後ろを歩いていたデップリとした男性が、片言の日本語で「き・を・つ・け・て」といってカモメを指差す。ハッとした。一定の距離を保った4羽のカモメが、私のソフトクリームを見ている。日本の3倍はあるだろうか。アメリカのカモメはやたらと大きく迫力満点。しかも、こちらを凝視しているのだからたまったものではない。大慌てでソフトクリームを平らげる。するとカモメはあっけらかんとした態度で、私たちと同じ方向に歩き出した。しかも同じ速度で。
サマーシーズンとはいえ、サンフランシスコはキリリとした空気に包まれている。日中の日差しは鋭く暑く感じるが、朝晩はシャツ一枚ではいられない。港町なのに、高原にいるようだ。先ほどのカモメは、何を思ったか踵を返し、向かいから来たセグウェイツアーの団体客に並行するかたちで、私たちの前から消えていく。何かを見つけたのだろうか。こちらはひと安心だが、妙に寂しい気持ちにもなった。 水族館にお土産屋、シーフードレストランにNFLショップ。ピア39は、アメリカ人が好きそうな店がこぞって軒を連ねるショッピングモールだ。帰りに寄ってみたいワッフル店とサングラスの専門店をチェックしながら、店には入らず突端まで一気に進む。すると、サンフランシスコ湾が目の前に広がった。色が濃い。そして、“あの”アルカトラズ島との初対面を果たした。 アルカトラズ島は、クリント・イーストウッド主演の映画で知った。1963年まで連邦刑務所として使用されながら、現在はその歴史をたどることができる観光の島である。映画では、海流が激しく水温も低いので脱獄は不可能だ、とのストーリーが展開するが、島は想像していたより近くにあって、これなら泳いで渡れるんじゃないかと思わせるロケーションだ。連邦刑務所当時、そう思った受刑者も少なくなかったのだろう。なるほど、この史実を映画にしようと思いつくのも分かる気がしてくる。つくづく映画を観てからでよかったと思った瞬間だった。
にわか映画評論家になって、あーだこーだと思いを巡らせていたところ、強烈な臭気が鼻を襲う。周囲の人は、もれなくその臭いの方に吸い寄せられていく。小さな女の子もだ。笑い声と嗚咽の表現のことばがあちらこちらから沸き起こる。埠頭いちばんの人気スポットには、ちょっとした人だかりができていた。主役はシーライオン、和名アシカだ。オエッ、オエッという重低音が響き渡る。残念なことに、今日は穏やかな天気で風がないので、獣が発する臭気は辺りにとどまったままだ。 埠頭横の船溜まりには、40あまりのイカダが設置されていて、そこが野生アシカの昼寝スポットになっている。夏の繁殖時期にはいないこともあると聞いていたが、今日は3割ほどが埋まる盛況ぶり。いくつかのイカダは寝返りが打てないような密度で、とても野生とは思えない油断だらけの姿だ。しかし、手前のイカダはガラ空きなので少々もどかしい。もっと近くで昼寝してくれればいいのに…。と思った矢先、すぐ目の前の水面から小さめのアシカがヒョコっと顔を出した。ワーっと歓声が上がる。すると、別の1頭がヒョコっ。同時に先のアシカが潜り、数秒後には後発のアシカも潜ってしまった。オオーっと深いため息。しばらくの静寂のあとも、観客たちのほとんどは手前の水面を注目している。しかし、なかなか出てこない。女の子が「出てきて〜」と声を上げると、それに呼応するかのように、あちこちからの声が交錯する。まだ出てこない。 ガラ空きの手前のイカダに、1羽のカモメが舞い降りた。すぐに観客から声がかかる。その声の方をカモメが向くと、途端に多くのカメラが向けられた。すかさず別方向の観客が声をかける。そっちには見向きもしない。小さなブーイング。ちょっとしたカモメのワンマンショーの開幕だ。相変わらず密集したアシカに動きはなく、待ち望む水面からも顔を出さない。しかし、この一体感がある屋外劇場では、アルカトラズより、カモメより、アシカより、なにより観客席を見物している方が楽しいということが分かった。恐るべし、エンターテインメントの国…。
街角10minとは… 目の前で起こる偶然は、私だけのストーリー。旅先では、ひょんな出会いが、一生の思い出に…。ふと感じる、街角の数分間。 そんな、夢にも似た物語をお送りします。旅は、いいものですね。
- サンフランシスコ
- 坂道の多い美しい街並みと、港町ならではの独特の味わいがあるサンフランシスコ。名物のケーブルカーやバスが、街の中をくまなく走っているので交通の便がよく、買い物・観光には最適です。さまざまな文化が交錯して生まれた伝統の街なので、さまざまな国のレストランやギャラリーが数多くあり、何度訪れても楽しめます。
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