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一歩も動かずに屋台をはしご 水上マーケット実況中継
バンコク(タイ)
このために、今朝はツアーに含まれているホテルでの朝食を軽く済ませていた。水上マーケットで少なくとも3〜4品、とにかくワイルドにガツガツと食べて、エキサイティングな思い出を作りたかったからだ。朝7時に出発して、途中線路スレスレに店が並ぶ「メークロン市場」を観光すると、水上マーケットには10時頃に着くらしい。何も食べないとお腹が空くので、オレンジやグレープフルーツなどの果物を中心に、さらにクロワッサンをひとつ。ヨーグルトにフルーツソースをトッピングしたものに心が動きそうになったが、いやいや、水上マーケットブランチのためにグッと耐えた。 ダムヌン・サドゥアク 水上マーケットは徐々に人が集まり始めていて、特にボートに乗っての運河巡りの船着き場には人だかりができていた。すでに運河の目抜き通り(!)には、多くのボートが活発に行き来している。半分は観光用で、半分は食べ物を提供する屋台船だ。ジワジワとお腹が空いてくる。これは予想通り。少し歩いて様子を観察してみると、椅子とテーブルがあるところにはボートが密集している。そうか、場所を取らなくては。
手摺りに板を乗せただけの、簡易テーブルがあるスペースに空きを見つけた。隣にはすでに若い女性の先客がいて、エビやカニ、イカの姿焼きなど、豪快に食してはワイワイと盛り上がっていた。しかし、すでにエビやイカを売るボートの姿はなく、目の前にいたのはカットマンゴーのボート。ホテルの朝食でたっぷりとフルーツは食べたし、いきなりデザートも何なので、すぐ後ろに控えていたパッタイ(ライスヌードルを使ったタイ風焼きそば)のおばさんに声を掛ける。「ツー!」「OK」。何ということはない、簡単だ。 パッタイのボートには、町中で見かける屋台の厨房がそっくりそのまま乗っている。大型のコンロに中華鍋、それを囲むように薬味や卵などの具材が入ったボールが並ぶ。おばさんはなぜか片足を船のヘリから出してドッシリと座り、注文と同時にすばやく調理を始めた。干しエビ、豆腐、豆の順で鍋に入れ、専用のフライ返しで混ぜ合わせる。そこで強火に変更すると、半透明の乾燥ライスヌードルを投入。しばらく炒めて赤い調味料をたっぷりとかけると、辺りにいい香りが漂った。空腹はピークにきている。水上マーケットブランチは間もなく開幕だ。 エビやカニのボートが来た。イカの姿焼きもあったので、それら3品を注文。パッタイを平らげる寸前だったので、なかなかいいタイミングだ。最初に沢ガニの唐揚げが来た。軽く塩が振ってあり、殻は柔らかい。噛むほどに蟹身の旨味が染み出てきて、スナック感覚の割には秀逸だ。次はエビ。強めの炭火で焼いているせいか、香ばしさが際立っている。最後にイカ。ボリューミーで肉厚、予想外に味がさっぱりしていたので、ナンプラーを少しだけもらう。いやはや、途端にテーブルが賑やかになった。ここで食べるスピードを落とし、一つひとつをゆっくりと堪能することにした。 隣りにいた若い女性たちは、何かを待っているようだった。ソムタム(パパイヤを使ったサラダ)が来ても、クイッティオ(タイ風ラーメン)が来ても、アクションは起こさない。しかし、ある揚げもののボートの姿が見えるやいなや、こっちに来るようにと大きく手を降った。正体は揚げバナナ。なるほど、珍しいし美味しそうだ。わたしたちもそれに便乗することに…。
45分ほどしか経っていないのに、人の数は倍増している。注文したものを離れた席で食べる人も増え、気温の上昇も相まって、想像していた「ごった返す水上マーケット」の風情になってきた。冷房の効いたレストランでのひとときも捨てがたいが、汗を拭きながらの食事も悪くない。ここは思ったとおりにはボートがやってこないスリルがあるが、一歩も動かずに「屋台のはしご」を楽しむことができるのが特徴だ。ふと、クルーズ旅行の魅力に通ずるものがあると感じた。 高温の油でサッと揚げた揚げバナナは、衣に砂糖がまぶしてあって満足の一品だったが、この気温で揚げたてホックホクだったので、締めにはふさわしくなかった。そこで、遠くを眺めて物色していると、待望のボートの姿が。ココナッツアイスだ。 軽く手を降って合図をすると、こちらに近づいてきた。すかさず指を2本立てて遠隔オーダー。お兄さんは笑顔でうなずき、岸との間に停まっている揚げバナナおばさん経由で、ココナッツアイス2つを手渡してくれた。それと入れ替わりに2つ分の代金120バーツを、これまた揚げバナナおばさん経由で渡してもらう。たった1時間で、ずいぶんと慣れたものである。 本物のココナッツの器に、削ったココナッツの果肉とクリーミーなココナッツシャーベット。豪快な見た目のココナッツづくしのアイスは、おしゃれなレストランでいただくようなものではなく、常夏の屋外ならではの逸品だ。その味は見た目に反してとても優しく、サラッとした口当たり。削った果肉とトッピングのアクセントは、シャーベットをことさら引き立てていて、ついつい顔がほころんでしまった。 私たちの姿を見てだろうか、後ろのグループも次々とオーダーしていく。聞けばオーストラリアからの一行らしく、8人全員が注文したようだった。そのうちのひとりが、いたずらっぽい顔をしながら耳打ちをしてきた。「実はね、2つ目なのよ」。
街角10minとは… 目の前で起こる偶然は、私だけのストーリー。旅先では、ひょんな出会いが、一生の思い出に…。ふと感じる、街角の数分間。 そんな、夢にも似た物語をお送りします。旅は、いいものですね。
- バンコク(ダムヌン・サドゥアク 水上マーケット)
- 運河を利用した大規模な水上マーケット。早朝から食料、雑貨、民芸品を売る舟でにぎわい、船上のおばさんの威勢のいい掛け声が響きます。「東洋のベニス」と呼ばれるバンコクの生活文化を垣間見ることができます。
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